新説 六界探訪譚 14.第六界ー12

どうしたらいい?
まとまらないまま意識が遠退くような。
右腕はもうずっとグーしか出せてない。
じゃんけんグミ側も、なぜかもうずっとグーのまま。
パー出したら確実に向こうは勝てるんだけどな。
多分向こうも勝負する気なくて、だからずっとグーなんだろう。
『じゃん、けん、ぽん!
うふふふふ~』
お決まりの台詞はトーンダウンもトーンアップもせず。
虚ろな気分はますます煽られていった。
出れねぇじゃん。
あーあ。
最悪。
てか、そもそもいっっっっちばん最初まで辿るとさ。
コウダがあのときあんなとこでよりによって川藤さん狙ってなきゃよかったんだし。
今だって薔薇触んなきゃよかったんじゃん。
その前だって。
思い起こすとどんどん愚痴っぽくなってくる。
やめやめ。過去のこと考えてもしょうがない。
今のこと考えよう。
『じゃん、けん、ぽん!
うふふふふ~』
グーであいこ。
だよなー…。
このままあいこが永遠に続くのかな。
永遠に続いたらどうなるんだ?
コウダが消える。
今どうなってんだ?
腕をグーでおざなりに振り出しながらコウダを確認。
うわぁ…見たことないくらい絶望感溢れてる。
もやしとかえのきとか、細くて白い系の野菜がダメになる寸前、みたいな。
目があった瞬間、多少生気がこもったように見えたけど、俺の気のない顔にショックを受けたのかまた元に戻った。
ああ、そっか。
俺は出られなくなっても、この中で永遠に、死にはしないんだっけ。
悪魔の囁きが聞こえた気がした。
だったらそれでいいんじゃね?
なんで俺こんな頑張ってじゃんけんしてんだろ。
消えるって思ったら超怖いけど、俺は別に消えたりしないんだろ?
親父や母さんには会うことももうなくなるけど、それはそれでだし。
現実にいたところで、遅かれ早かれ親父や母さんだって死んでいなくなるんだし。
四月一日やら矢島やらは、なんだかんだで友達枠。切れることもある関係だし。
安藤さんとか、他の人はやっぱ他の人だし。
ここなら。
全部分かる。
全部出来る。
俺の事。
俺だけの。
俺が思ったことが、多分だけど、殆ど思ってた通りに。
「…い! おい!!!」
コウダだった。
「お前やる気だせ!!」
叫んでる。
さっきもだったな。
なんでそんな頑張るんだろ。
「消えてきてるから!!!!!」
コウダが見える。
目がいいから見えてしまう。
スニーカーの先がない。
確かに、消えてきていた。
消え方が現実の俺の時と同じだとすると、この後、暫くそのままで、そして一気に。
そうだ。コウダには世話になった。
何度も何度も。
コウダが居なくなったら俺はここから出られない。
それ以上に、コウダが消えちゃう。
なんとかしないと。
なんとか…。
「俺はここで消えるわけには行かないんだ!
借金返してあっちで…」
ああ。そっか。
そーゆーことか。
それは本当にすとんと。
今更ながら腑に落ちた。
なんでコウダが今迄あんな付き合ってくれてたのか。
コウダはきっと賭けたんだ。
俺とこの『六界探訪』をすることで、借金返済の目処が立つ可能性に。
パネェわー…。
マジ尊敬ー…。
嘘じゃなく、確かに敬意は湧いていた。
でもそれと反比例するように、頑張る動力になってたものがすーっと引いていった。
「俺は金持って戻るんだからな!!!」
コウダの熱~い決意表明で、さらに急速に冷めていく。
だって、もっかいほじくり返すけどさ。
今コウダがあの薔薇触ったからこうなってんだよね。
借金返済の目処は立つかもって、武藤さんの後で言ってた癖に。
その上さらに金が欲しかったのかよ。欲だろ。
それで危ないから助けてーって、なくね?
俺のっていうよりコウダの自業自得じゃね?
俺は戦利品なんて最初からどうでもよかった。
コウダもコウダで、俺のためじゃ全然無くて、寧ろ自分のために俺のこと利用してたわけだ。
それも俺に黙って。
あーあーあーそーですかぁー…。
俺、狡ぃなーな~んて思ってたけど、あっちもあっちなわけか。
じゃ、もう気兼ねとかいらねぇな。
頑張る必要ないわ。
パカパカッ
ん?
目に移る景色が一瞬明るいものに総入れ替えされ、すぐに元通りになった。
あれ? サブリミナル?
いや電波障害??
あ、まただ。
入れ替わった方の景色は青くなる前に近かった。
赤・黄色・緑のLEDに、踊るみんな。
楽しげで、笑顔に満ちて。
じいちゃんの声がして。
浴衣姿の俺二号もいて。
そうだ!
声がしたってことは、この『中』のどっかにじいちゃんも実はいるのかも!
親父も、母さんも。もちろん機嫌がいいときの感じで。
俺が思う姿で。
俺がいいなと思うような!
そこに、グミに握られたコウダだけが、悲壮な顔で浮かんでいた。
また視界がちらつく。
何度も、何度も。
だんだんと明るい景色が出てる時間が長くなってきた。
やっぱ、邪魔だなぁ。
俺の心地いい世界の中で、コウダの姿だけが明らかに邪魔だった。