昼と夜のデイジー(旧版) 16

 その一週間で何とか魔女バーギリアを制覇した私は、他の同世代の子たちのレベルを全く分かっていないにもかかわらず、『私すげー!』と思っていた。
 ドルはあんなこと言ってはぐらかしたけど、私は気になる。
 そこで、一ついいことを思いついたのだ。私が思うに、このところ私はドルからの情報に頼ってばかりいたように思う。自分で何かしようという気構えがなくなっていたのだ。
 で、実際に何を使用かというと。
「じゃあ、今日も散歩の時間ですから」
「は~い」
 私はメイドのひとりと外へ出かける。つまり、ドルの目もなく、他のメイドたちの目もなく。
「今日も良いお天気ですね」
「ええ。本当に」
 できるだけ、取り留めなく。そして、その中にこっそり。分かりやすく。
「ねえ、一つ聞きたいことがあるんだけど良い?」
 メイドは力いっぱい頷く。
「ええ。何なりと」
「あの…ちょっと…その…」
 ココで少し言いよどむのが重要だ。こうすることで恐らく彼女はよくありがちな”大きなお世話の勘違い”をしてくれるだろうから。
「ドルのことなんだけど…」
 『ドル』ではすぐにピンとこなかったらしく、そのメイドはしばらくしてから目を見開いて、分かった! という顔をした。
「彼ってこういう休憩時間に何をしているのかしら? 何って言うのも変よね。…あの、ごめんなさい、やっぱりいいわ…聞かなかったことにしてっ! ねっ!」
 メイドは初め驚いた様子だったが、やがて合点したという笑いを見せた。
「ふふ…そういうことでしたら、私はあまり…」
 作戦第一弾成功。
 私がドルに恋していると思い込ませれば、召使たちはある程度ドル関係の情報を教えてくれるだろう。
 もし情報を持っていなかったとしても、噂好きな彼らのこと。瞬く間に話が広がって、場合によっては新たな情報を発見し、私の元へ持ってきてくれるかもしれない。
「あ、そういえば」
 よーし。いい感じ。
「以前誰かから話を聞いたことがあるのですが、コルウィジェさんの家ってとっても遠いらしいですわ。このところ中々家に帰れていないとか」
「それは前に彼から聞いたけれど、でもそれはこの辺りで働いている人の多くがそうなんじゃない?」
「まあ、それはそうかも知れませんが、何でも家におばあ様がひとりきりの状態だそうで、そのことが気がかりだけれど、地元では働く口がないと言っておられました。さぞご心配だろう、と」
「そうなの? でも、彼ってお休みがとっても少ないわよね。なんだか悪いわ」
 びっくりしてしまった。私としてはあまり必要ない情報だけれど。
 メイドも私もしばらく言いよどんだ。もしそれが本当だとしたら。
 でも、ドルの言うことだし。でも、本当だったら。
 胡散臭いなー。それは最初からか。
 迷い。迷い。迷う。だったら。
 善意で、解釈しておこう。
「よし。今度、お父様かお母様に言っておいてくれるかしら。ドルにお休みをって。一週間か、二週間でもいいわ」
「そ、それは私からは…」
「大丈夫よ。勉強は自分でするわ。あと、ドルには私が言い出したってことは黙っておいて欲しいの。お願い」
 メイドは目を丸くしていた。今日は驚く日だと決めたのかもしれない。
「分かりました。では…メイド長に伝えておきます」
「ありがとう」
 自然、笑顔がこぼれた。生まれて初めてかもしれない。
 もう家の玄関だった。